老後2000万円問題を解説
自衛官は国家公務員ですから、民間企業で働く場合よりも経済的に安定しているとのイメージを持つ方も多いでしょう。しかし実際には、定年が早い、再就職が難しいなどの難点があります。
老後に備えて蓄財しておかないと、ゆとりある老後生活を送れなくなるリスクもあります。
そこで今回は、自衛官における定年制度の実情、さらに自衛官は老後に備えてどのくらいの蓄財が必要なのかについて、具体的な金額を挙げつつ詳しく解説しましょう。
一般的な公務員や民間企業の場合、労働者の定年は60歳です。しかし自衛隊の場合はそれよりも早くに定年を迎えることが多いです。
そのため、自衛官が定年後の生活を考える場合、世間一般と同じ人生設計を立てることはできません。
◇自衛官の定年年齢はほかの公務員や民間企業よりも早い
自衛官の定年退職の年齢は、階級ごとに定められています。最も階級が高い「将」および「将補」の場合だと60歳ですが、それより下の階級の場合、定年年齢は50代です。
2020年1月からスタートする新規定によると、階級が「3曹~2曹」は53歳、「1曹~2佐」が55歳、「1佐」が56歳です。将や1佐まで昇進する人はそれほど多くないことを考えると、大半の自衛官は53~55歳で定年を迎えるといえます。ほかの公務員や一般企業だと60歳ですから、それよりも5年以上も早くに退職することになるわけです。
◇再就職しても自衛官時代の年収を維持するのは難しい
年金の受給開始年齢はほかの公務員と同じく65歳ですから、53~55歳で定年退職してから65歳までのあいだ、何もしなければ定期的な収入は得られません。そのため多くの自衛官は、退職後に再就職の口を探します。
しかし、自衛隊という特殊な世界で培った経験を民間企業で活用できる場はそれほど多くありません。自衛官時代に培ったスキル、資格を活かせる職を見つけられたら問題ありませんが、そうでない場合、再就職先の収入は以前よりも大幅にダウンすることが多いです。
たとえば、自衛官で54歳までの佐・尉・曹全体の平均月給は40万円ほどですが、民間企業に業界未経験者として再就職すると月給は20~25万円まで下がります。
定年退職時に自衛官に支払われる退職金は、曹長だと約2,000万円、佐官だと約3,000万円といわれています。また、50代で定年を迎える自衛官を対象に若年給付金も支給されており、実際の支給額は1,300~1,500万円ほどです。
若年給付金は、60歳まで現役で働くことができるほかの公務員や民間企業との収入差を埋めるために支給されています。
この退職金と若年給付金を使えば、53~55歳で退職後に再就職した際に直面する収入減をある程度補填できるでしょう。しかし、65歳以降の年金生活のことを考えると、退職金と若年給付金だけでは決して安心はできません。
◇年金のみでは老後毎月9万円の赤字が発生する恐れがある
53~55歳で自衛官を退職後、民間企業に再就職しても60歳で定年です。最近では定年延長制度や再雇用制度が一般的になっていますので、収入はさらにダウンするものの、65歳までは働いて収入を得る機会は多いでしょう。
しかし、65歳以降になると、就労によってまとまった収入を毎月得ることは難しくなり、本格的な年金生活がスタートします。
生命保険文化センターが行った意識調査(令和元年度実施)によると、老後の最低日常生活費は夫婦2人だと平均で月22.1万円、「ゆとりある老後生活費」だと平均で月36.1万円です。[1]
一方、国家公務員が受け取る年金は平均で毎月約22万円、専業主婦の妻が受け取る国民年金は平均で5万5,000円なので、夫婦2人の年金収入は約27万5,000円と試算できます。
この年金額だと最低限の日常生活は送れるものの、ゆとりある老後生活を送るには毎月約9万円足りません。
[1]公益財団法人 生命保険文化センター「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/oldage/7.html
純粋な年金生活を65歳から送ることを想定すると、日本の平均寿命である84歳まで約19年あります。この19年間に毎月9万円の赤字が発生するとしたら、総額で9万円×12カ月×19年=2,052万円もの赤字が生じるわけです。
老後にゆとりのある生活を送ることを考えるなら、年金生活を開始する65歳までに約2,000万円の貯蓄を蓄えておくことが望ましいでしょう。
退職金や若年給付金は53~55歳の定年退職年齢から、年金開始までの65歳までの間にかなり使ってしまうことも考えられます。現役の自衛官時代から、コツコツと蓄財しておくことが大切です。